【 すきバサミを使わない美容師 】 すきバサミにとりつかれた悪魔の話。
第一印象は
「 なんて可哀そうな髪型 (カット) なんだろう・・・。 」
と思った。
初めてご来店のAさん。
カウンセリングスタート
第一声が
「 すきバサミを使わないで欲しいんですけど・・・・。 」
心の奥から絞り出したような願いにも似たオーダーだった。
Aさんも自分の髪の状態を理解しているようだった。
話を詳しく聞いてみると前回行った美容室でのオーダーは
・ 伸ばしているから長さはあまり変えたくない
・ 量が多いから軽くしてほしい
と伝えたとのことだった。
カットが始まると長さは整える程度に切っていたらしいが
量を軽くする段階で満を持して登場したのが 【 すきバサミ 】 である。
Aさんは確かに量は多い。
なのでそれまで 【 すきバサミ 】 を使われることがほとんどで
前回の 【 すきバサミ登場 】 もなんら気にしてはいなかった。
だだし前回は少し違ったようだ。
ジャキッ! ジャキッ!
と軽快なリズムでカットが進んでいく・・・
最悪のゴールに向かって一直線に。
で、仕上がったのが誰が見てもまとまりの悪いスカスカヘアー。
案の定本人も気づく。
それを察したような美容師は
「 もう少し軽くして動きを出しますね。 」
最悪のその先に向かうらしい。
案の定、更にスカスカ最悪の状態になってしまった。
美容師もどうも上手くいかないと思ったのか
コテでどうにかスタイリングして誤魔化していた。
というのがAさんに聞いた前回の美容室での話。
話をカウンセリングの時に戻そう。
Aさんの今の状態は
〇 鎖骨下ミディアムの長さ
〇 中間から毛先にかけてかなりスカスカ
〇 多毛 ・ クセ少し
〇 まとまりが悪い ・ パサつき ・ 広がり
いただいたオーダーはまず1つ。
【 すきバサミを使わないでカットをして欲しい 】
他の要望を聞いてみる。
・ スカスカを直して綺麗なロングにしたい
・ 伸ばしていきたい
・ 量が多いから軽くしてほしい
・ 今の状態が嫌なので必要ならば長さを切っても仕方ない
「 重さが出るところまでバッサリ切る 」
これしかない ・・・ 。
と思っている美容師も多いだろう。
それは
「 パサついてまとまりが悪いのは毛先がスカスカだから切る 」
からなのか!?
「 綺麗なロングヘアーにするには重さが必要だから切る 」
からなのか!?
いずれにしろ
「 伸ばしていきたい 」
というAさんの要望は
「 長さをバッサリ切らないと重さが出ない 」
から却下。
ということになってしまう。
理屈は良く分かる。
しかし重さが出るところまで切ったら
【 量が多いのが気になる 】
という問題にまたぶつかるのではないだろうか ・・・ !?
それがまた 【 すきバサミを使う美容師 】
だったら同じことの繰り返しが起こる可能性はないだろうか ・・・ !?
そもそも
「 バッサリ長さを切らなくてもいい方法 」
を考えてはあげないのか ・・・ !?
今回初来店で行った施術は
《 伸ばしたいから長さはなるべく残す 》
《 重さを出してスカスカを直す 》
《 毛量を取る 》
《 乾かすだけで簡単にまとまるようにする 》
《 パサつき、ダメージを直す 》
という内容。
Aさんの髪の状態で
《 長さを残す 》 と 《 重さを出す 》 と 《 毛量を取る 》
は矛盾している。
と思うだろう。
従来のカットならば確かに矛盾している。
というより不可能。
しかし カット次第では可能 。
Aさんの髪の状態で重さを出せるところまで切るとなったら
13 ~ 14センチ以上切ることになる。
実際切ったのは4センチ。
10センチの差は大きい。
単純計算でも1年の差。
4センチと設定した理由は
それだけ切れれば 「 重さを作れる 」 と思ったから。
《 重さが出るとこまで切る 》
のではなく
《 カットで重さを作る 》
という考え。
従来のベースカットは
【 真っ直ぐ引き出して真っ直ぐ切る 】
のが当たり前。
それでは4センチカットしただけでは重さは作れない。
真っ直ぐ引き出して真っ直ぐカットせずに
” 毛先がズレる様にカット ” をする。
この計算したズレを作ることによって
毛先に弾力と柔らかさが生まれ厚み ・ 重みが出る。
残りの問題は 【 毛量 】
ここでまた 【 すきバサミ 】 を使ったら元も子もない。
” すきバサミを一切使わない美容師 ”
を探してご来店頂いているので
【 すきバサミを使わないでカットをして欲しい 】
という要望にはご安心頂いていた。
毛量調整のカットはすきバサミではなくハサミのみで行う。
『 すきバサミ 』 はハサミを入れたところから軽くなる
という便利なハサミではあるが
便利だと感じるのは使う美容師だけ。
ハサミを入れたところから軽くなるということは
量感のバランスがバラバラになるということ。
分かりやすく説明すると
「 1回閉じると50%量が取れるすきバサミ 」
を髪の中間で1回使うと
根元から中間まで毛量 100%
中間から毛先まで毛量 50%
という状態が出来上がる。
もちろん1回使っただけでは終わらない。
中間から毛先に向かって何回か閉じる。
すると
根元から中間まで毛量 100%
中間の毛量 50%
毛先の毛量 25%
繰り返し閉じれば閉じる程毛先の毛量は減っていくが
根元から中間の毛量は100%のまま変わらない。
* 根元からすきバサミを多用する美容師もいるが
上記のケースよりも悪質で危険なので注意。
なのですきバサミを何回も使うと全体の毛量バランスは
「 根元から中間まで100% 、 毛先だけスカスカ 」
という状態が出来る。
Aさんがまさにこの状態。
今回の施術で大事なのは
《 毛先の量は減らさずに根元の量を減らす事 》
つまり
【 中間から毛先のスカスカの毛量は変えない 】
【 根元から中間の100%の毛量を毛先につなぐ 】
という作業。
これはすきバサミでは不可能な作業。
ハサミで細かく根元から中間の量を取っていく。
根元からグラデーションで毛先にかけて量を減らしていく。
すきバサミのように強引に量を減らすのではなく
場所 ・ クセ ・ 毛量 によってハサミの入れ方を変え
【 骨格 】 【 髪質 】 に合わせて的確にハサミを入れていく。
こうする事で
ヘアスタイルに必要な毛量のみを残して
髪はツヤを保ち、しなやかで柔らかく動く。
上記の ベースカット と ドライカット で
Aさんの状態は
《 長さをなるべく残してミディアムキープ 》
《 毛先に厚み重さが出てきた 》
《 根元の毛量を調節して減らした 》
《 広がりがなくなりツヤが出てきた 》
このように状態はかなり改善したが
すきバサミを多用された髪が完全に良くなるのは
正直1回では難しい。
しかし上記のように
お客様のその時の髪の状態に合わせて
的確にハサミを入れていけば直りは早くなる。
今回のAさんのように
「 長さを残して直す 」
ではなく
「 バッサリ切る 」
のであれば1回で直るケースもある。
「 長さを残して直す 」
場合でも上記のようなカットを続けていけば
必ずいい状態に直る。
いずれにしろ
【 髪の状態に合わせた的確なカット技術 】
が必要だということ。
髪質 ・ 骨格を気にせずすきバサミを多用する
《 すきバサミにとりつかれた悪魔 》
にはご注意を。